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東京高等裁判所 昭和39年(行ケ)163号 判決 1972年2月17日

原告

株式会社日立製作所

右代理人

本間崇

外三名

被告

三菱電機株式会社

右代理人

門頼雄

外二名

主文

特許庁が昭和三九年九月一五日、同庁昭和三四年審判第六八〇号事件についてした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

原告訴訟代理人は主文同旨の判決を求め、被告訴訟代理人は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求めた。

第二  請求原因

一、本件の特許庁における手続の経緯

原告は特許第二五一六五三号「透視欄干を有するエスカレータ」(昭和三〇年九月八日出願、昭和三三年一月二四日出願公告、昭和三四年四月二一日登録。以下「本件特許」という。)の特許権者である。被告は、昭和三四年一二月一八日、原告を被請求人として、本件特許につき無効審判の請求をした(昭和三四年審判第六八〇号)。特許庁は、昭和三九年九月一五日、右審判事件につき、「本件特許を無効とする。」との審決をし、その謄本は同年一〇月三日原告に送達された。

二、本件特許の特許請求の範囲

内側面に透明羽目板を施した欄干と、この欄干により支持さた移動手摺の摺動を案内する台枠とを有するものに於て、前記台枠に移動手摺両端の半円形折返部を案内する半円形部を設け、その外周に沿うて多数の小径コロを配列し、これらのコロにより移動手摺の折返部を摺動案内せしむると共に、欄干の内側面には前記半円形部に至るまで連続して透明羽目板を施したことを特徴とする透明欄干を有するエスカレータ。

三、審決理由の要点

本件特許の特許請求の範囲および本件特許発明の要旨は前項掲記のとおりである。そして、移動手摺の半円形部およびその案内用半円形部をコロ案内の構成とし透明羽目板を施す構成とすることが移動手摺の両端において行われるべきことも右要旨に含まれる。

本件特許の明細書によれば、百貨店の売場において、エスカレーター設備が大きな空間を占有して重圧感を与える点に鑑み、透明羽目板を用いた透明欄干が要請されるところ、エスカレーターは、欄干に施した移動手摺を踏段と同期速度をもつて駆動し、しかもこの駆動を円滑に行う必要上、欄干の上下両端の折返部の内部に手摺を駆動する大径単一車輪からなる駆動車および案内車とこれらの軸受装置とを内蔵設置することが不可欠であるため、その部分を透明にすることは困難であるとされていたのであり、本件特許発明は、前記要請に応えるために、右の困難の技術的解決手段を創作することをその課題とすることが明らかである。そして、右課題を達成するために必要な技術的解決手段は、(1)大径単一車輪からなる駆動車およびその軸受装置をその位置から排除しても手摺を駆動できるように設計して解決を図ること、(2)大径車一車輪からなる案内車およびその軸受装置をその位置より排除しても手摺を案内できるように設計して解決を図ることの二要素に分つことができる。しかるに、本件明細書を検討すると、(2)の案内手段についての説明はあるが、(1)の駆動手段については「移動手摺9の駆動は欄干の下辺を通る移動手摺の部分に駆動車を作動せしむるものである。」との記載があるだけで、その具体的な技術的説明を欠いている。したがつて、本件特許発明はその課題を達成するために必要な二点の技術的解決手段のうち一点を欠いているので、いまだ発明を完成したものとは認められず、旧特許法(大正一〇年法律第九六号)第一条に規定する特許要件を具備しない。よつて、本件特許は同法五七条第一項第一号により無効とすべきものである。

四、審決を取り消すべき事由

本件特許発明は、エスカレーターの移動手摺の案内機構をその機能を失うことなく欄干内部から取り除くことを課題とし、(1)多数の小径コロを台枠の両端または一端の半円形部の外周に沿つて移動手摺の折返部の内側に配列すること、(2)欄干の内側面に前記半円形部に至るまで連続して透明羽目板を施すことを構成要件とするものである。移動手摺の駆動を欄干の下辺で行うことは、大正一三年九月二七日特許局資料館受入の英国特許第一四八一三号明細書によつて、本件特許出願前公知であり、審決引用の本件明細書の記載は右公知技術を前提とするものである。したがつて、移動手摺の駆動機構をその機能を失うことなく欄干内部から取除くことは本件特許発明の課題ではない。審決はこれを本件特許発明の課題であると誤認した結果、本件特許発明は発明として未完成であると認定したものであるから、違法として取消を免れない。

第三  被告の答弁

原告主張の事実は全部認める。

第四  証拠関係<略>

理由

原告主張の請求原因事実は全部当事者間に争いがないところ、右事実によれば審決は違法であることが明らかであるから、これを取消すべきである。よつて原告の請求を認容する。

(服部高顕 石沢健 滝川叡一)

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